「で、お前は何で此所にいんの?」
通りを少しばかり抜けて、開けた道の傍に息も絶え絶えにへたりこみながら、銀時は桂にそう訊いた。
「それはこっちの台詞だ」
久方ぶりにあいみまえる旧友は、微量だが青年らしさを増したように銀時は感じた。少し痩せた。
其れは自分が不在の間に、如何に萩の小さな村が混乱に見舞われていたかを雄弁に物語っていた。
ただ変わらないのは彼の髪の長さと、その横柄な態度だった。
「悪かったよ、黙って消えちまって」
「ああ、まったくだ」
桂は溜息と共に即答した。これは、かなり怒っている。流石に心配をかけすぎたようだ。
だが、銀時は誰かに心配をかけるということに慣れていない。
自分一人が居なくなると、誰かに迷惑を掛けるという発想そのものに欠けていた。生い立ち上仕方のないことではある。
「あの後すぐに江戸に向かったのか」
「うん」
「そうか」
桂と最後に萩で会った日の夜、銀時は最低限の荷だけをまとめて萩を出た。
江戸に向かうつもりであったが、行って何をするというわけでもない。兎に角江戸に向かうしかないと思った。
義務というよりは寧ろ、そうする運命にあると言ってもよかった。
無計画な独り旅の道程、幸いにも江戸へ向かう旅団に出くわした。
彼らが山賊に襲われているところを銀時が助けたのだ。
護衛という名の下で、銀時は彼らと合流することを許された。いや、正確には彼らに懇願されたのだ。
その一部始終を聞いた桂は、何て無鉄砲な、と心底呆れた顔で言った。
「まあ、お前が無事ならそれでよしとするか」
桂は空を仰いだ。似つかわしくない優しい赦し方である。銀時は紛れもなく安堵した。桂の存在はとても懐かしかった。
「お前らは___」
言いかけて銀時は口をつぐんだ。聞かずとも、上京してきた理由など一目瞭然である。
わざわざ言葉にさせて、改めて聞きたくもなかった。桂もそれ以上聞かなかった。
「お前、宿は?」
「ん?あー…まぁ適当に。何とかなってるよ」
「貴様またそんないい加減な!俺たちの宿に来い。いいな?これは提案じゃないぞ」
「はいはい…」
桂の強引さには参る。だが嬉しい申し出であった。
他の塾生に遠慮して銀時が断る隙を作らないために、無理に高慢な物言いをしているのだろう。
何だかんだといって、桂は銀時という人間を本当によく理解している。
この宿泊はいつまでになるのか、わからなかった。
吉田の処刑を見届けたその後、桂一行はどうするつもりだろう。
そもそも、彼らは吉田を救おうとしているのだろうか?それ以前に、銀時自身は?
此所に集った人間の思惑は、ひどく漠然としている。
そもそも、銀時自身、時に自分が江戸に居る理由を忘れている。
本当に、あの人は殺されて仕舞うのだろうか。どうしても実感が沸かないままに、数日を過ごしていた。
自分が江戸にいる間、萩のあの小さな家で、師はのんびりと午後を過ごしているような気がしてならない。
土産を買っていかなければ、と馬鹿らしいことを本気で考えてしまう。
隣にいる桂は、どうなんだろう。
宿までの道がわからんと元も子もないことをほざいている、この小綺麗な友人は、もう武士らしく恩師の定められた死を受け入れたのだろうか。
銀時は空を仰いだ。居る筈もない神に、全部夢ってことにしてくんないかなぁ、と叶わぬ願いを馳せた。
じょういむずい
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